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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)221号 決定

抗告人 藤井壽

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、豊信用組合に対する売却を不許可とする裁判を求める。」というものであり、抗告の理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

よって、検討するに、本件記録によれば、原裁判所は、昭和六〇年二月五日、別紙物件目録記載の宅地・建物(以下「本件不動産」という。)について、原裁判所執行官に期間入札の方法による一括売却の実施を命じ、入札期間を同年三月五日から同年三月一二日午後五時までと定めたうえ、同年二月一九日、民事執行法(以下「法」という。)六四条四項及び民事執行規則(以下「規則」という。)三六条一項に規定する事項(以下「公告事項」という。)を同裁判所の掲示場に掲示して公告し、また、前同日、埼玉県川口市役所あてに、公告事項を記載した書面を速やかに同市役所掲示場に掲示するよう嘱託したことが認められる。

ところで、入札期日等が定められたときは、裁判所書記官は、入札期日の二週間前までに、公告事項の公告(以下「公告」という。)をし、かつ、不動産所在地の市町村に対し、公告事項を記載した書面を当該市町村の掲示場に掲示するよう入札期日の二週間前までに嘱託(以下「掲示の嘱託」という。)しなければならない(以下右各二週間を「公告掲示期間」という。)(規則一七三条一項、四九条、三六条一項、二項)が、右公告掲示期間は、公告及び掲示の嘱託の日の翌日から各起算して、入札期日(期間入札にあっては当該期間の初日)の前日までに二週間を置くことを要するものであり(法二〇条、民事訴訟法一五六条一項、民法一四〇条参照)、また、これらの規定の趣旨・目的は、公告及び掲示の嘱託、公告掲示期間の設定により多数の入札人の入札を誘引し、適正な買受価額による競売を実現しようとするにあるものと解される。

してみれば、原裁判所は、本件不動産の競売手続において、期間入札の初日の前日(昭和六〇年三月四日)の二週間前である同年二月一八日までに、公告及び掲示の嘱託をせず、翌一九日になってそれをしたのであるから、その売却の手続には公告掲示期間につき誤り(以下「本件売却の手続の誤り」という。)があるといわねばならないが、しかし、規則三六条一項、二項の前記趣旨・目的並びに法七一条七号の法意に照らして考えると、原裁判所は、本件売却の手続において、公告及び掲示の嘱託と入札期日との間に、一三日間は存置しているのであり、本件売却の手続の誤りである公告掲示期間の欠如は、幸にも一日間にのみとどまったものであるし、本件全資料を検討するも、公告掲示期間の右欠如のために多数の入札人の入札への誘引、適正な買受価額による競売の実現が害されるに至ったとか、害されるべき具体的事情が存したとか、その他当事者・利害関係人の利益が害され或いは害さるべき事情があったというべき事実関係は全く存しないのであるから、かかる事実関係のもとにおいては、本件売却の手続の誤りは、法七一条七号にいう「売却の手続に重大な誤りがあること」の事由に該当するものではないと解するのが相当である。

したがって、本件不動産の売却の手続には、抗告人主張の法七一条七号に該当する事由は存しないものである。そして、本件全資料を精査するも、他に原決定に影響を及ぼすべき法令の違反等の事由を見い出すことはできない。

よって、本件抗告は、理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 尾方滋 橋本和夫)

〈以下省略〉

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